人間ドック費用を福利厚生費にして節税
利益が順調な企業や少数精鋭の企業では、経営の土台となる社員の健康への意識が高く、健康診断を手厚くしたいというニーズがあります。この記事では、人間ドッグの費用を会社の経費にするための方法について説明しています。ポイントは、一般的な水準を超えない内容で、従業員が平等に受診できるようにすることです。
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1.健康診断の実施義務
2.税務上の取扱い
(1)すべての従業員に受診機会を与える
(2)健診費用は会社から医療機関に直接支払う
(3)役職を基準として内容に差をつけない
(4)一般的な水準を超えない金額の範囲内にする
3.ケースごとの取扱い
4.おわりに
1.健康診断の実施義務
労働安全衛生法により、常時使用する従業員がいる場合には年一回の一般健康診断の実施が義務付けられています。会社の義務なので、費用についても会社が負担するものとされています。なお、オプション検査や法定項目以外の費用は従業員に負担させて構いません。
2.税務上の取扱い
健康診断費用については、一般的な水準で全員を対象したものであれば福利厚生費となり、個人には課税しないこととされています。対象者が特定の役員や従業員だけの場合は、給与又は役員賞与として個人に課税されます。会社の福利厚生費として節税に活用するには、次のすべての要件をクリアすることが必要です。
(1)すべての従業員に受診機会を与える
健康診断は、正社員だけでなく、1週間の労働時間が正社員の3/4以上のパート等も対象者となります。
(2)健診費用は会社から医療機関に直接支払う
健康診断費用は従業員の立替払いとせず、会社から医療機関に直接支払うようにします。立替払いがダメな理由がはっきりしませんが、書籍において「医療機関への直接支払いを要件とする」との記載がありました(大蔵財務協会の「源泉所得税の実務」)。理由を推測すると、「個人的な健診ではないのだから、会社で指定した医療機関を受診し、会社が直接医療機関に支払う」ことが前提となっていると思います。
(3)役職を基準として内容に差をつけない
役職等を基準として人間ドッグの対象者を決めてしまうと、給与や役員賞与として課税されます。福利厚生費とするためには平等な基準での運用が必要なので、対象者は「年齢〇〇歳以上」として決めるようにし、特定の役職者だけが対象とならないようにします。就業規則に記載しておくか、社内規定を作っておくと良いでしょう。
(4)一般的な水準を超えない金額の範囲内にする
国税庁の質疑応答事例では「2日間の人間ドック程度」であれば、給与として課税しないとされています。一般的な相場を見ると1泊2日で7万円程度が多いようです。その位の水準であれば問題ないと考えます。
3.ケースごとの取扱い
次のいずれの場合も、福利厚生費として処理できないケースとなります。
想定されるケース | 福利厚生費処理 | 個人への課税 |
役員だけで人間ドッグを受けたい | 不可 | 役員賞与 |
家族分の健診費用 | 不可 | 役員賞与又は給与 |
一般的な水準を超えたプラン | 不可 | 役員賞与又は給与 |
「経営幹部が病気になった場合、経営上のリスクが大きいため手厚くしたい」という理由であっても、福利厚生費には認められないため、上記2(1)〜(4)までの要件を満たす形で運用するようにしましょう。
4.おわりに
国立がん研究センターによると、日本人が一生のうちにがんと診断される確率は男性65.5%、女性51.2%で、2人に1人はがんに罹患する結果となっています。人間ドッグにより、自覚症状がない病気の早期発見につながることもあるそうです。要件を満たすことで経費にできますので、福利厚生の一環として活用すると良いでしょう。