小規模企業共済で節税と将来への積立を

個人事業主や小規模企業の経営者の退職金制度として、160万人以上が利用しているのが小規模企業共済です。掛金は全額所得控除となり、共済金を受け取る際には退職金または公的年金として優遇されるため、個人の節税対策として有効です。なお、加入要件の従業員数には上限があるため、事業規模が大きくなる前に加入しておく必要があります。この記事では小規模企業共済の概要とメリット、デメリットについて説明しています。

白石川千桜公園の桜
 

小規模企業共済は、国の機関である中小機構が運営する制度で、個人事業主や小規模企業の経営者や役員の退職金制度として活用されています。国の機関であるため安心感があり、税制上の優遇措置や事業資金の借入にも使うことができるなど、使い勝手の良い制度となっています。

 

(1)4つのメリット

 

①掛金が全額所得控除できる

掛金は月額1,000円〜7万円まで500円単位で自由に設定でき、加入後も増減できます。支払った掛金は全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除となり、合計所得から引けます。将来に向けた年金の積立には、生命保険の個人年金保険もありますが、生命保険料控除(個人年金分)の控除額は最高4万円なので、小規模企業共済の方が大きく節税できます。

なお、ideco(個人型確定拠出年金)や国民年金基金も、小規模企業共済掛金控除となり、支払った全額を所得控除できますが、基本的に60歳以降の受取可能年齢になるまで途中解約ができません。一方、小規模企業共済は解約ができるので、万が一の時には引き出すことができます。(④参照)なお、idecoと小規模企業共済を併用することもできます。

 

②退職金または公的年金として受け取れる

退職や廃業の際には、共済金を「一括」、「分割」、「併用」のいずれかで受け取れます。一括受け取りの場合は退職金として「退職所得扱い」、分割受け取りの場合は「公的年金等の雑所得扱い」となり、税制上の優遇があります。

<退職所得と公的年金への優遇>

所得の区分税制上の優遇
退職所得・掛金の支払年数に応じた退職所得控除額を引ける
・退職金から退職所得控除額を引き、1/2にした金額課税対象となる
・他の所得と合算せず、低い税率で税金計算できる
公的年金等の雑所得・年金収入から公的年金等控除額を引ける

受取方法は、受取時の所得の状況から税負担をシミュレーションし、ご希望をうかがって決めています。

 

③契約者貸付で借入ができる

事業資金が必要な場合は、支払済の掛金合計の7割〜9割の範囲内で貸付けを受けられて、低金利(0.9%〜1.5%)で迅速に資金を準備できます。コロナ禍では無利息貸付も実施され、経営者に重宝されていました。

 

④万が一の時には解約して引き出せる

資金繰り等の都合で解約したい場合には、自己都合による解約(任意解約)ができます。65歳未満での解約は一時所得扱いとなりますが、万が一の場合に引き出せるのは心強いです。

 

(2)3つのデメリット

自己都合で解約する場合は、①と②のデメリットがあります。また、将来的に退職金優遇税制の見直しの可能性も出てきています。

 

①12か月未満での解約は解約手当金がゼロ

加入後12か月未満で任意解約等となった場合は、解約手当金がゼロとなってしまいます。

 

②20年未満での解約は元本割れになる

掛金支払が20年(240か月)未満で自己都合で解約する場合、解約手当金が掛金合計額を下回り、元本割れとなります。また、65歳未満での自己都合での解約手当金の受取は、一時所得となり税制上の優遇がなくなる(※)ため、自己都合扱いとならない共済事由(廃業、法人成り、65歳以上での受取)を満たして受け取る方が良いでしょう。

出典:中小機構 小規模企業共済のしおり

※一時所得の場合は、(解約手当金ー特別控除額50万円)X1/2が一時所得として課税され、退職所得控除や公的年金等控除による優遇が活用できません。

 

③税制改正で優遇見直しの可能性がある

政府が2023年に「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」と「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」において、退職金を優遇している現在の税制の見直しを盛り込んでいます。直近の2024年度税制改正では見送られていますが、将来的に退職金への課税がどのように見直しされるかが不透明な部分があります。

退職所得課税制度等の見直し
退職所得課税については、勤続20年を境に、勤続1年当たりの控除額が40万円から70万円に増額されるところ、これが自らの選択による労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘がある。制度変更に伴う影響に留意しつつ、本税制の見直しを行う。

出典 内閣官房 新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版より抜粋
 

個人事業主の加入資格は、次のようになっています。

(1)加入できる方

常時使用する従業員数(※1)が次の表の人数以下である、個人事業の事業主と共同経営者(※2)が加入できます。卸売業、小売業、サービス業(宿泊業、娯楽業を除く)は、正社員の数が5人以下である間に加入する必要があるため、早めに加入した方が良いでしょう。

事業の種別従業員の数
建設業、製造業、運輸業、不動産業、農業、サービス業(宿泊業、娯楽業に限る)等20人以下
商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業、娯楽業を除く)5人以下

※1 常時使用する従業員数は、共済への加入時点で正社員として雇用されている人数をいいます。個人事業主、共同経営者、家族従業員、パートアルバイトを含まない正社員の人数です。なお、共済契約後に加入要件の人数を超えても、共済契約を継続できます。

※2 共同経営者は、事業主の方と一体となって意思決定を行なっているなど事業の経営に携わっている方をいい、個人事業主1人につき2人まで加入できます。

(2)加入できない方

事業を兼業している形の個人事業主は、加入することができません。

  • 事業を兼業している給与所得者
  • アパート経営のサラリーマン
  • 生命保険外務員など
 

会社等の役員の場合の加入資格は、次のようになっています。

(1)加入できる方

常時使用する従業員数(※1)が次の表の人数以下である、会社等の役員が加入できます。役員登記がされていて、事業に従事していることも必要です。

事業の種別従業員の数
建設業、製造業、運輸業、不動産業、農業、サービス業(宿泊業、娯楽業に限る)等20人以下
商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業、娯楽業を除く)5人以下
企業組合、協業組合、農事組合法人20人以下
士業法人5人以下

※1 常時使用する従業員数は、共済への加入時点で正社員として雇用されている人数をいいます。法人の役員、家族従業員、パートアルバイトを含まない正社員の人数です。なお、共済契約後に加入要件の人数を超えても、共済契約を継続できます。

(2)加入できない方

法人の役員であっても次のような方は、加入できないことととなっています。

  • 事業を兼業している給与所得者
  • アパート経営事業をしているサラリーマン
  • 中退共等の被共済者
  • 小規模企業者に該当しない会社等の役員を兼任している方
  • 社団法人、医療法人等の役員
  • 合同会社、合資会社、合名会社で業務執行権がない役員の方
 

個人事業主や小規模企業では、日々の資金繰りで忙しく、経営者の将来の退職金の積立まで手が回っていないことが多くあります。それでも、勇退される経営者の方から「辛い時期もあったけど、積み立てておいて良かった」とのお話を聞くと、頑張って早いうちに加入する方が良いことを実感しています。今後も退職金課税の見直しがされるかどうかを注視しつつ、経営者様に対し、将来を見据えた提案をしていきたいと考えています。