相続税申告が必要かどうかの判断

亡くなった方の遺産が基礎控除の範囲内であれば、相続税はかからず、申告も不要となります。一方、配偶者への優遇措置や自宅敷地の評価減などの制度を使って税額が0円となる場合は、0円であっても相続税の申告が必要となります。

この記事では、相続税の申告をしなくてよい場合と、申告が必要な場合について解説しています。

 

(1)〜(3)のいずれかに該当する場合は、相続税の申告は必要ありません。いずれにも該当しない場合には、申告をする必要がでてきます。

 

(1)相続財産が3,000万円以下のとき

プラスの財産から、借金などのマイナスの財産を差し引いて計算した純財産が3,000万円以下の場合は、申告の必要はありません。

プラスの財産は次のものが該当します。

プラスの財産土地、建物、現金預金、有価証券、自動車、貴金属、書画骨董、家財など
死亡保険金、死亡退職金、亡くなった方が支払っていた生命保険契約の権利など
相続開始前3年以内に亡くなった方から贈与された財産
亡くなった方から相続時精算課税を使って贈与された財産

マイナスの財産は次のものが該当します。

マイナスの財産借入金、未払金、葬式費用など
 

(2)相続財産が基礎控除以下のとき

純財産が基礎控除額以下の場合も、申告は必要ありません。基礎控除額は次の算式で計算します。

基礎控除額=3,000万円+600万円X法定相続人の数(※)

※法定相続人は、民法が定めた相続人を指します。相続税で使用する法定相続人の数の数え方にはルールがあり、相続放棄が無いこととすることや、養子の数の制限があります。

 

(3)申告要件のない控除等で税額が0円となるとき

申告しなくても適用できる控除等を使って相続税額が0円となる場合には、相続税の申告は必要ありません。

申告しなくても適用できるもの死亡保険金等の非課税、障害者控除、未成年者控除など
申告しないと適用できないもの配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例など
 

申告しなくても使える非課税と税額控除には、主に次の3つがあります。

 

(1)死亡保険金の非課税

亡くなった方が支払っていた保険の死亡保険金を相続人が受け取った場合には、法定相続人の人数1人につき500万円の非課税枠があります。

区分計算式
死亡保険金非課税となる金額=500万円X法定相続人の数
死亡退職金非課税となる金額=500万円X法定相続人の数

現預金で持っていると相続財産として課税されますので、死亡保険金の非課税枠を活用することで節税につながります。高齢になってから加入する場合は、一時払い終身保険が使われることが多くあります。

 

(2)障害者控除

相続人が85歳未満の障害者の場合は、満85歳になるまでの年数1年につき10万円(特別障害者は20万円)を相続税額から控除できます。

区分計算式
一般障害者の場合障害者控除額=(85歳-相続開始時の満年齢)X10万円
特別障害者の場合障害者控除額=(85歳-相続開始時の満年齢)X10万円
 

(3)未成年者控除

相続人が未成年(18歳未満)の場合は、満18歳になるまでの年数1年につき10万円を相続税額から控除できます。

未成年の場合未成年者控除額=(18歳-相続開始時の満年齢)X10万円
 

申告することで使える軽減制度には、主に次の2つがあります。

 

(1)配偶者の税額軽減

亡くなった方の配偶者については、財産形成への貢献や生活保障が考慮されており、税負担が大きく軽減されます。課税対象となる金額が1億6,000万円以下(1億6,000万円を超える場合は、法定相続分まで)であれば、配偶者の相続税は0円となります。

 

(2)小規模宅地等の特例

亡くなった方の自宅や事業に使用していた土地については、評価額を最大8割下げる特例があります。一定の要件を満たしていれば、限度面積までの部分について評価額を下げることができます。

利用区分限度面積減額される割合
特定居住用宅地等(亡くなった人の自宅の敷地)330㎡80%
特定事業用宅地等(亡くなった人の個人事業の敷地)400㎡80%
貸付事業用宅地等(亡くなった人の貸付用の敷地)200㎡50%
特定同族会社事業用宅地等(亡くなった人の会社の敷地)400㎡80%
 

次の具体例の場合は、相続税の申告が必要となります。

問: この度、父が亡くなり、父の財産を相続することになりました。相続税がかかる財産の価額の合計額が6,000万円、父の債務・葬式費用の合計額が1,000万円である場合、相続税の申告は必要でしょうか。相続人は母と姉と私の3人です。なお、3人で協議した結果、財産債務は全て母が承継し、葬式費用も母が負担しました。

出典 国税庁 相続税の申告のしかた

この場合、純財産の額と基礎控除額は次のように計算します。純財産の額が基礎控除額を超えるため、財産を取得した母は相続税の申告が必要となります。

  • 純財産の額 6,000万円ー1,000万円=5,000万円
  • 基礎控除額 3,000万円+600万円X3人=4,800万円
  • 課税対象となる金額 5,000万円ー4,800万円=200万円
  • 相続税額 0円(配偶者の税額軽減△20万円)

配偶者の税額軽減があるため、実際の相続税額は0円となりますが、申告を要件とする軽減措置なので申告自体は必要となります。

 

遺産の金額は、土地建物や有価証券などの評価、保険契約などの調査、預金の入出金状況の調査などを行って確定させるため、当初の想定額よりも増えることも多くあります。申告が必要かどうかが判断できない場合は、早めに相談することをおすすめします。